「30になるまであと何年。」
24,5歳あたりから、誕生日はそんなことばかり考えている。 子どもを産むつもりはないから結婚を焦る必要はないし、恋人という距離でも誰かと向き合うまでに私はまだ至れない。
仕事はなんとかしないとな、焦ってるばかりで何も出来なかったけど、やっと環境が落ち着き、それに伴って体調も落ち着いたので、なんとか転職活動にこぎ着けることが出来た。
確実に進んでいる、自分の予想を遥かに上回る速さで。
それなのになぜか心もとない。なんちゃらクライシスとかいうらしい。30を迎えた友人たちは、「30になったら楽になった」という。私も30を迎えたら、楽になれるのだろうか。
私はスーパーで昼夜バイトして働いている。実年齢を全く伴わないレベルの童顔を持つ私はよく「学生?」と聞かれる。違います、そんな歳じゃないので、と答えると「じゃあ結婚してるの?」と聞かれる。デリカシーのない人は「じゃあいくつなの?」と聞いた上で結婚してるか聞いてくる。そんなこと世間話としてしてくる相手にも、適当に上手く流せない自分にもうんざりする。わかってるよ、この歳でこの頻度で働いていることが世間にどんな目で見られるか、なんて。人それぞれ事情があんだよわざわざ聞いてくれるな、なんて思いながら。
それまで猫なで声で話しかけてきた社員が年齢聞いて引いて態度が変わったのを見て、そんなに若い子が好きなのか?いっそ社員は年下だったのだろうか。なんて思ったけどそれ以上深くツッこむ気力も失せた。こういうやつがいるから職場でスッピン眉すらかかない、を通してきたのに逆効果とは、笑える。
年齢と容姿と社会的な立場が釣り合わない。一般的な社会のレール上から外れて10年以上。人とズレていることも、それに何か言われることも、慣れたはずなのに、不意打ちの言葉に傷つく。職場に買い物に来た地元の中学の同級生に「なにかしたいことあるの?」ないと言ったら「じゃあなんでまだこんなとこで働いてるの」と言われた。なんで他人の人生にそんな勝手なこと言うんだろう。体調が良くないことを告げたら、バツが悪そうに「それならしょうがないね」と言った。今は上手くいるようだ、スーツも着てるし、彼女をつれて来たこともある。きっと私と同じ状況で自分が同じことを言われたら、顔を真っ赤して怒るくせに。
昔、付き合っていた人から20の誕生日にもらった指輪をはめてみた。力仕事で指にも筋肉がついたようで少し小さく、以前よりゴツくなった指にはハート型のルビーは似合わなくなっていた。すっかり逞しくなっちゃって。今の手も指も、私は嫌いじゃない。自分で生きていくのに、心強い指だ。
転職活動で履歴書を書くにあたって、過去の履歴書の下書きを引っ張り出してきた。なんと当時学生だった彼の大学のルーズリーフに書いてある。少しだけ頭を抱えたあと笑ってしまった。指輪ともう1つ捨てられないものがある。履歴書を書くことに相当なストレスを感じている私に「履歴書を書く時に側にいなくても少しでも助けになれるように」と彼が21,2あたりの誕生日にくれた万年筆とボールペンセット、多分安くはない良いものだ。しかしちっとも私の趣味じゃない。気持ち自体はこれ以上ないくらいすごく嬉しいのに、長年付き合っているのに私の趣味を理解していないことが残念だった。当時の私にはボールペンは重くて使えずに、でも、捨てられず、しまったままにしていた。
強くなった私の指はあの時もらったボールペンがよく馴染むようになっていた。当時は重く感じたのだけど、今はちょうどいい。書き味も、心地いい。
別れてから再会して1日過ごした最後に彼は言った「結婚を前提にまた付き合ってくれないか」また「それがだめなら自分達の関係にケリをつけるために連絡手段を絶つ。」と、私は泣きながら申し出を断った。会いたくなったとしても、もう会うことはない。
私は彼からもらったボールペンで履歴書を書く。共に生きることを選ばなかった私は自分の力で生活していくために進む。
時を待った
声を殺して
あなたの行手に
何があろうと
駆け出すための足
欲しがって 泣いたこと
あきらめない 止まらない
手を伸ばして
藍に深し / Cocco
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私は走る。ずっと側で支えていてくれた人が残したものを携えて。
どこかで幸せでいることを祈っている。
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